Vol.617 生後36か月で知的能力が決まるとしたら

イノベーションのジレンマ」で著名なクレイトン・クリステンセンさんの「教育×

破壊的イノベーション~教育現場を抜本的に変革する」(2008年翔泳社)を読みました

。第6章の「幼年期が生徒の成功に与える影響」に注目すべき記述があります。

生後36か月(つまり3歳)までに、どれだけ親から語りかけを受けたか、その言葉の量が

その後の知的能力を決める、というのです。この間に4800万語(1時間あたり約2100語)の

言葉をかけられた子供は、そうでない子供よりも明らかに物事を理解する力が高くなる、と。

この言葉のシャワーは「~しなさい」とか「手を出して」といった単純な指示の言葉ではダメ。

“あたかも乳幼児がその発言を聞き、理解し、完全に返事をしているかのよう”(本著からの

抜粋)なものでなければならないそうです。だからといって会話調のTV番組を見せ続けた

としても、これもダメ。そういう言葉は背景的な雑音となり、知能にはほとんど影響を

与えないそうです。

同じ指導を受けているのに、理解が進む子供とそうでない子供がいるのは事実です。

みなさんも経験的にそれを知っていると思います。この違いを本人のやる気や教員との

相性の問題、はたまた家庭環境、遺伝で片づけられない、と思っていましたが、

学校教育を受ける前に知的能力の基盤が違ってしまっている、というのなら腑に落ちます

これが真実ならば(本著によると実証されているとのことですが)えらいことです。

教育行政、福祉行政、育児政策、親の意識など変えなければならないことが山盛りです。

優秀な人材が揃ってこそ、国、社会、企業の成長につながりますから。

行政は教育予算の配分を「3歳まで」に相当の傾斜配分をしないといけません。

高等教育の充実を図りつつあるようですが、その前にやることがあります。4歳未満の教育・

福祉の充実です。

例えば1~2歳児の保育の場合、一人の保育士が担当する子供の数は6名というのが国の基準

ですが、これだと、保育士の手が回らず、語りかけといっても”~しなさい”、“ダメ!”

といった「指示」ばかりになってしまうでしょう。0歳時並みに3名以下にすべきです。

また「語りかけ」を意識する保育士を大量に育成確保する必要があります。

それよりも大事なのは「親の育成」です。親が生後36か月の関わりの重要性を認識し、

適切な語りかけをしたり、相応な環境の下で子育てをする。これが一番だと思います。

ところが、われわれは「親になること」について教わったり、練習をする機会がありません。

ここが課題の本丸です。

昭和の時代には家族や親戚や、家族づきあいをしているご近所さんなど、子育てを一緒に

する人たちが周囲にたくさんいました。そうなると見よう見まねで学んだり、兄弟や親戚の

子供の世話をさせられることがありましたので、疑似的に「子育て」をイメージしたり、

体験することができていたわけです。今は違いますよね。

一部の高校で「親になるための教育」を実践しているようですが、これを全国で必修に

すべきだと思います。もちろん、高校生のときに学んだとしても、そのときは“学びたい”

という意識が希薄でしょうから、それほどの効果は期待できません。保育園・幼稚園での

実習を義務化するのも良いと思います。大学でもやった方がいいでしょう。

しかし、これだけでは足りません。

母子手帳を交付した時点で、両親の出席を義務化した講座を開催することを提案します。

1回でいいと思います。ただし、その1回を(シングルマザーなど特別な事情がある場合は除いて)

両親で受講していない場合には出産時の助成金を支給しないなどのペナルティもつけた方が

良いと思います。

その後も出産後、半年、1年などの節目にこの「親講座」を開催します。参加すると

子育てに使用できるバウチャーが支給されるといったインセンティブがあった方がいいでしょう。

この「親の育成」が主たる政策で、その流れから保育園の質的量的充実を図るのが良いと

思います。それなしに働く女性の職場復帰促進を支援する施策を展開しても、

長期的には国を衰退させることになりかねません。

他にもあります。更に子供の運動能力が落ちていることも深刻だと思います。子供時代に

遊びを通じて身体を動かし、自然に身体能力が上がります。私の幼少時代と今は大きく

違います。子供が遊んで怪我をするのは当たり前、という風潮がありました。

今は公園から“危なそうな”遊具が姿を消しています。

大型の遊具を販売している会社の人に聞きました。遊具の劣化などでなんらかの事故が

起きると一斉に同じ型の遊具の撤去となるそうです。そういえば、球形のジャングルジムで

くるくる回る遊具を見かけなくなりました。ボール投げができない小学生が目立つ

ようになってきたことも懸念されます。

子供の育成は行政、学校、(企業を含む)社会、親が力を合わせてこそ成しえるものだと

思います。やること満載です。

おまけー1:オリンピックを終えて「Identity crisis(自己の喪失)」に直面する選手が

たくさんいるだろうなあと心配します。ビジネスマンでも同じ。大きな仕事を終えたり、

途中で外されたりするとIdentity crisisに対峙することになります。

自分の中でいかに昇華させられるか。そこで器を問われます。

おまけー2:卓球。どこの国にも「中国出身」らしい選手がいますね。猫ひろしだけじゃない。

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