937号「不正トライアングルを増幅してしまうもの」(メールマガジン「人事の目」)

ゼネコン大手の大成建設が、建設中の大型複合ビル(札幌市)で施主側に虚偽の数値を報告していたことが判明。建設していた地上すべてと地下部分が建て直しに。工事は28か月遅れになるという報道がありました。この事件により同社の幹部2名が引責辞任するそうです。

「工期が厳しくなるため、数ミリのズレであれば問題ないと思った」という担当者のコメントが報道されていますが、今後おそらく第三者委員会が組成されて、原因と責任の追及がなされることでしょう。

個人による不正行為が後を絶ちません。過去に某社の死傷事故問題の第三者委員会の副委員長を務めたほか、同様の課題解決のコンサルティングを手掛けたことがありますが、その際に「不正のトライアングル」という理論を知りました。この理論は人が不正をしてしまう仕組みをモデル化したものです。組織犯罪を研究する米国の学者ドナルド・R・クレッシーが犯罪者調査を通じて導き出した理論を元に、W・スティーブ・アルブレヒトがモデル化したと言われています。

「不正のトライアングル」では以下の3つが不正につながる要素であるとしています。

1)不正を行うことができる「機会」(特定の一人に業務が集中、不正しやすい環境など)
2)不正につながる「動機・プレッシャー」(お金に困っている、過酷な労働環境、高い目標設定など)
3)不正を「正当化」できる背景(不正をしないと倒産する、みながやっている、突出した成果など)

私はこれに「孤立」という要素が影響を与えていると思います。

先日、少年刑務所でのカウンセラー経験から某大学で心理学を教えている方とお会いして、少年犯罪の心理について教えていただきました。半径3メートルの人間関係を改善することで非行に走らなくなる、というお話を聞き、その通りだと思いました。

私は組織の中での「孤立」が「不正のトライアングル要素」を増幅させるだろうと思っています。

リモートワークは組織内の人々を孤立させました。一人で仕事を完結させる方向に仕事が整理されました。ジョブ型への指向は孤立に拍車をかけています。オフィスに出勤して仕事をしていても、周囲に人がいたとしても「一人」という感覚の人も少なくないと思います。出社から帰宅まで、周囲と雑談ひとつもしないという人もいるでしょう。それでも仕事は廻っていきます。

その昔、外資系の多くのオフィスがそういう感じでした。挨拶もせず出社。高いパテーションの中で全員が各自各様に仕事をして、仕事以外の余計なことは一切せず、定時になったら挨拶もせずに帰宅。ものすごい孤立感を感じたことを覚えています。

この状態を放置しておくと、組織が“ただ仕事をしているだけ”の集団になります。組織へのロイヤリティも周囲へのケアもありません。社内不正が発生する温床となります。

リモートワークと出社のハイブリッド、仕事の整理は止まりません。そういう環境下でいかに組織メンバーの孤立感を解消するか。今日の組織マネジメント上の重要課題だと思います。

基本は対話です。対話の場をいかにつくるか。一対一と一対他の関係をいかにつくるか。忙しいから、そんなことやってられないではありません。忙しいからこそ、やるのです。開催、継続の秘訣はスケジューリングです。年間を通して、「対話の機会」をスケジュール化しましょう。

特にこの春に入社してくる新卒社員は大学時代に一度もキャンパスでリアル講義を受けたことがない、という人もいると聞いています。若者の孤立化を防ぐための施策は特に重要です。


おまけー1:あるところで、どう考えても「泥縄」だ・・と話していましたところ、「泥でできた縄じゃない!縄はしっかりしてる!」と言われましたが、語源的に泥は泥棒ではなかったかと・・・ 

おまけー2:WBC決勝。米国チームのベンチが盛り上がりにかけた印象です。ペッパーミルアクションとかやらないのかな。

おまけー3:某番組でウェンディゴというUMAの存在を知り、まだまだ勉強が足りないと思いました。

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