Vol.517  自分のキャリアなのに自分の意思がない?

プロ野球選手でドジャーズのスカウトも務めた小島圭市さんにお会いしました。

旧知のクーバーコーチングの石橋社長のご紹介です。西麻布のやき鳥「たき田」で

会食しました。小島さんは現在、小中学生を対象に野球教室を開催しているそうです。

 

こう書きますと、“プロ選手の引退後のよくありがちな展開”なのですが、彼が目指して

いるものは違います。表面上は野球教室なのですが、彼が教えていることは身体脳の

刺激を通じた「生き方」そのものです。私はそこに共鳴しました。

 

ちょうど夏の甲子園が始まりました。甲子園に出場するのは大変なことです。ここから

未来のプロ野球のスターが生まれてくるでしょう。しかしプロになれるのは一握り。

その中で長期間にわたって活躍できるのは更に一握り。これが現実です。

 

大多数の球児たちは野球ではない道で生きていくことになります。ところが、いざ、野球

ではない道に進むことになったときに(正確には進まざるを得ないことになったときに)

途方に暮れてしまう。自分は何ができるのか、もっと言うなら何をしたいのかわからない。

こういう球児が大半です。

 

ドラフトに上がるような一流プレイヤーも同じ。プロに行くか、進学するか、社会人野球に

行くか、そう問われても、自分の意思がない。親や監督の指示で動きます、と答えるそうです。

 

小島さんがテキサスレンジャーズに所属していたときにロッカールームで司法試験の勉強を

している選手がいて衝撃を受けたそうです。野球がダメなら弁護士で。こういう発想をする

日本のプロ野球選手はまずいない。

 

“自分のキャリアなのに自分の意思がない。”

 

そうなってしまうのは、幼いころに受けてきた指導の影響が強いと小島さんは考えています。

指導者たちが、“試合に出たいなら、とにかく自分の言うことを聞け”と指導漬けにする。

このため、子供たちが自分で考えることを止めてしまう。ここを変えていかないと思考停止の

球児が生まれ続けてしまう。ここに小島さんの問題意識があります。

 

彼の指導法は「考えさせること」を中心に据えています。決して指導漬けにはしない。

うまくなるにはどうしたらいいのか、とにかく自分で考えさせる。

 

この指導をしていると、子供たちが自分たちの中で優れた子供の動きを見つめ、マネし始める

のだそうです。どうすれば、あの子のような動きができるか、自分とあの子は何が違うのか・・・。

この主体的なベンチマークを通じて、自分を客観視する力がついてくるのでしょう。

 

更にはこのプロセスを通じて、“自分は野球ではない道”を選びたいと言ってくる子供も

出てくるそうです。優れた子を見つめれば見つめるほど、自分とは違う、自分はああは

なれないことを実感し、そうであれば別の道を選ぼうと自分で考える。真剣に取り組んだ

こその結論です。そうなると、自分の選択肢には他のスポーツもあり、勉強もあり。

こういう展開になるのが素晴らしいと思います。

 

小島さんの指導でおもしろいのは野球のグランドに本棚を置いていることです。勉強したいと

思った時に手を伸ばせるところに書棚がある。これがあるので、試験期間中には「勉強してから

野球」が当たり前になっているそうです。

 

“自分のキャリアなのに自分の意思がない。” 

 

これは一般企業の中でも多くみられる現象です。“どうしたいか?”と問われても自分の中に

解がない。与えられた仕事を従順にこなし、時間が過ぎ、ある時、他の道を選ばざるを得ない

状況に直面して途方にくれる。大企業で直面しているバブル期入社の中高年問題です。

 

ここも根っこは同じです。優れた業績を上げている社員、組織の中で良い影響を与えている

社員を見つめ、マネし、自分を高めようとする。真剣に取り組んだがあの人のようにはなれない、

と思ったら別の選択肢を自ら考える。これが自然に行われるような指導、仕組み、風土を

形成しませんと、大量リストラの繰り返しになります。

 

企業においてこれを実践していく最も早いやり方は新卒、中途社員を有期雇用にすることです。

これまでよりも処遇を上げて募集しましょう。ここで言う処遇とは報酬、仕事内容、責任と権限です。

プロ意識の高い連中が集まってきます。既存の社員についても有期雇用社員に代わると処遇が上がる

(無期雇用のままだと処遇が下がる)仕組みにします。

 

この仕組みと自分で自分のキャリアを考えるための指導が附帯すると“自分のキャリアに思考停止”

の社員は減っていくはずです。

 

おまけー1:ちなみに小島圭市さんですが、以下のサイトを見ると彼がやろうとしていることが

わかります。

 

http://bb-future.net/kk/

 

おまけー2:少し前に紹介しました、社員の気分指数を可視化する「ゾンビ・レスキュー」ですが、

明日(10日)22時からのNHKのBS-1「Biz+サンデー」で紹介されます。ご覧ください。

 

http://www4.nhk.or.jp/bizplus/x/2014-08-10/11/33626/

 

おまけー3:先週は某団体の「経営合宿」、OT公演×2回、会食3回、など等、充実していましたが、

さすがにバテ気味。来週は数日間行方不明になる予定です。

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