902号「素人がバットを振り回している」(メールマガジン「人事の目」より)

「世界中で素人がバットを振り回している。」

誰もが知っている某エンタメプロデューサーからお聞きしました。「世界中で素人がバットを振り回している。俺たちは期待があるから当てに行かないといけない。そうなると、なかなかホームランは打てない。」

これはエンタメの世界だけの話ではありません。新規事業の立ち上げでも同じような話をよく聞きます。大企業の中で新規事業を立ち上げようとすると、あちこちからいろいろ言われます。まだどうなるかわからないのにKPIをコミットさせられたり、投資回収計画を問われたり。いわば衆人環視の中での打席になります。そうなると、“当てに行く”事業にならざるを得ません。これでは“ホームラン”は出ません。

多くの大企業では、事柄を進めるにあたり決められたプロセスから逸脱しないことを求めます。そのための番人もたくさんいます。このスタイルは強いビジネスモデルがあり、それを確実に遂行し続けるためには最適だと思います。一方で“ホームラン”となるような新規事業を求めるとしたら、このスタイルが足かせになります。誰も見ていないところでバットを全力で振り回している“連中が世界中にいるわけです。衆人環視の中で恐る恐るバットを振っていては勝てるわけがありません。

大企業の強みはリソースと展開力です。それを活かしながら“ホームラン”を狙うとしたら、自社の統制を外した「特区」を設置するか、特定の現場への権限移譲を拡大する。その上で、ルールや調和を重視する働き方ではない働き方ができる人材を配置する。これしかないと思います。中途半端な権限移譲の中に創発型の人材を配置すると疲弊して辞めます。当然ながら成果はでません。(このケースがあまりにも多い。)

最も現実的なアプローチはベンチャーとの協働です。ベンチャーに資金を出し、口をださない。助けを求められたら助ける。モノが出来たら、大企業の信用力と資金力を使って展開する。コロナウイルス開発のファイザー+ビオンテックモデルです。

その際、担当する社員が自社のプロセスをベンチャーに押しつけないように注意してください。ベンチャーには総務も法務もいないのが当たり前です。膨大な契約作業を求めたり、支払いに関して自社のやり方でないと進められないというような発言をする担当がすべてをだいなしにします。更に酷いのはベンチャーが開発している知的所有権を横取りするような契約書をしれっと出してきたり、口頭で発注しキャンセル、支払いをしないという事例もあります。ベンチャーをなんでも言うことを聞く下請けと勘違いする大企業の担当者の傍若無人さに呆れることも多々あります。ここは権限あるトップがベンチャーのCEOの目線で進めないといけません。

東京商工リサーチによると、2021年(1-12月)に新しく設立された法人は14万4622社で前年比10.1%増えている。思い切りバットを振っている人たちが増えている。日本の大学生の起業意思はいまだ世界の中で最低水準だと聞きますが、就職先としてベンチャーを選ぶ若者が増えています。明るい兆しです。新規事業開発には元気があるベンチャーを探し、共創することをお薦めします。


おまけー1:経済同友会の「スタートアップ企業の成長策として、一定の要件を満たした企業は時間外労働の上限規制の適用対象から外すべきだという提言」を私は支援しています。そもそも、世の中に新しい価値を提供するために昼夜問わず“バットを振りたい”という想いは「自分の時間を提供して労働する」という概念とは全く異なるものですから。

おまけー2:あるところで履いたスリッパのせい(と思う)でなんと水虫になってしまいました。早期治療が一番なのでドラッグストアで水虫の治療薬を購入。お会計を済ませてお店を出ようとしたら、

“水虫のお客様―!、お釣り100円足りませんでした!”

店内のお客さん全員から“あ、あの人、水虫だ”という視線が・・・(100円にしては辛い)

おまけー3:“唐揚げのお客様!”とコンビニで声をかけられ、水虫のお客様!という声がけはやむを得ないものと納得。ただし、黙って走ってきてくれたらなら、そのお店のファンになったことは間違いなし。

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