近年、多くの企業で「CHRO」の役職が導入されています。経済産業省が2020年に発表した「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会」の最終報告書(通称「伊藤レポート」)でもその重要性が繰り返し述べられたこともあり、CHROへの注目が高まっているといえるでしょう。
この記事では、CHROとはどのような役割を担うポジションなのか、定義や具体的な役割、求められる姿勢について解説します。これからCHROを選任するうえでの参考にしていただくほか、すでにCHROを選任している企業においても、役割の見直しにご活用ください。
Contents
CHROとは
CHROとは”Chief Human Resources Officer”の略で、「最高人事責任者」と呼ばれます。CHP(Chief Human Officer)の名称を用いる場合もありますが、両者に大きな差はありません。
日本企業でなじみのある「人事部長」があくまでも人事部門の現業をリードする役職であるのに対し、CHROは経営幹部の一員として人事戦略を立案し、遂行する責任を負います。
近年、人的資本の価値が向上し、経営戦略と人事戦略の紐づけが重視されるようになったことを背景に、日本企業でもCHROを選任する動きが増えてきました。
CHROの役割
CHROの役割は、一言でいえば「人事の経営参謀の実現」です。経営参謀とは、企業経営の優先課題を見極め、意思決定を後押しする重要な判断材料を提示する存在です。人と組織の側面から企業の進むべき方向や課題を明確化し、ビジネスステージと合致した最適解を実現します。
CHROの役割は、大きく分けて以下5つに集約されます。
- 経営戦略に基づく人事戦略の策定・実行
- 事業推進に必要な人材の定義と確保、組織デザイン
- 経営戦略に沿った人事制度の確立
- パーパスや価値観の浸透
- プロフェッショナルな人事チームの構築
それぞれの役割について解説します。
①経営戦略に基づく人事戦略の策定・実行
CHROは、経営幹部の一員として経営戦略の立案段階から深く関与し、人材・組織の面から人事戦略の策定や実行を推進する役割を担います。
人事戦略は、企業の掲げる経営戦略の実現のために存在します。目の前の課題や現場だけを意識した戦略ではなく、経営の視点から見た人材・組織戦略のデザインが必要です。
人事戦略には、人材の採用や育成、配置、評価、制度設計、組織開発など、多様な要素が含まれます。自社の経営戦略の実現に向けて理想と現状のギャップを把握し、経営陣と深く協議しながら戦略を立案する必要があるでしょう。
②事業推進に必要な人材の定義と確保、組織デザイン
事業プランの実現に向けて、必要な人材を定義します。将来的なビジョンから逆算し、人材に求められるスキルや専門性、総量、組織構成や組織デザイン、チーム体制までを想定し、それらの確保に向けて戦略を実行します。
人材の定義は、採用や育成、評価などすべての人事戦略につながる重要事項であるため、経営陣との目線合わせも重要です。定義した人材がいつまでにどの程度必要かを見極め、計画的な外部採用・内部育成を実行するまでを、CHROが責任者として担当します。
③経営戦略に沿った人事制度の確立
経営戦略の実現に向けて、組織のフェーズや目指す姿に沿った人事制度を確立します。
人事制度は、組織が求める人材像を明示し、「何に対して報酬を支払うか」を具現化するものです。同時に、従業員の成長とモチベーションを促進する重要な仕組みでもあります。
制度設計はもちろんのこと、適切な運用に向けて検証や修正を重ね、従業員に浸透させていく工夫も必要です。
➃パーパスや価値観の浸透
パーパスや価値観を組織に浸透させるための組織開発・人材開発(OD&TD)も、CHROの大きな役割のひとつといえます。
パーパスは企業が向かうべき方向性であり、価値観はその方向性に向かうために行うあらゆる行動や決定の指針です。構成員すべてが同じパーパスと価値観を共有することで組織は前進し、持てる力を発揮します。
CHROはパーパスと価値観を浸透させる「エバンジェリスト」として、組織を力強く前進させる役割を担います。
⑤プロフェッショナルな人事チームの構築
多岐にわたる人事戦略を実現するうえでは、取り組みを実行する人事部門に高い専門性が必要です。
これまでの人事部門に求められた労務オペレーションだけではなく、CoE(センター・オブ・エクセレンス)として人材戦略をリードし、HRBP(HRビジネスパートナー)として事業部門と連携していくなど、多様な役割と専門性が求められます。
CHROは人事のプロフェッショナルとなる人材を集め、育成し、組織として機能を発揮するためにマネジメントします。
CHROに求められる姿勢
次に、CHROに求められる姿勢を3つご紹介します。
- 経営コアメンバーとの密な連携
- 事業戦略への関与
- 従業員や投資家などへの積極的な発信
CHROは、経営幹部の一員として人事部門のトップに留まらない経営的な視点が重要です。
①経営コアメンバーとの密な連携
CHROは、CEO(最高経営責任者)やCSO(最高経営戦略責任者)、CFO(最高財務責任者)、CDO(最高デジタル責任者)などの経営コアメンバーと密に連携し、経営戦略の立案と実現に注力する姿勢が求められます。
特に人材戦略においてはイニシアティブを発揮し、経営戦略とのズレがないか、適切なKPIを用いて変革をリードしているか、常に理想と現実のギャップを把握しながら推進していく必要があります。
②事業戦略への関与
必要な人材の定義においては、事業戦略との連動が不可欠です。事業戦略を理解するためには、自社の事業内容や保有する技術・情報だけでなく、企業を取り巻く社会的・政治的な変化や他社の情報にも敏感である必要があります。
上記の必要性から、事業部門での経験が豊富な人材からCHROを選任する事例も多くあります。CHROとして事業の重要アジェンダに積極的に関与し、理解を深める姿勢が大切です。
③従業員や投資家などへの積極的な発信
企業の保有する人的資本は、投資家や社会が企業価値を判断する大きな要因のひとつです。CHROは、自社の人材戦略を積極的に発信するとともに、ステークホルダーとの対話を重視する姿勢が求められます。
また、組織風土を醸成し、従業員のエンゲージメントやパフォーマンスを高めるうえで、社内への積極的な発信も徹底する必要があるといえるでしょう。
企業の生き残りをかけてCHROの役割は大きい
産業構造や人口動態の変化など、企業を取り巻く環境が大きく変化していく中で、「人材」は企業価値を高める最大の要因です。また、労働者の仕事や転職に対する価値も大きく変わりつつある今、企業の人材への向き合い方は注目を集めています。
人材や組織の在り方に直結する人事戦略の役割は大きく、その立案と推進を担うCHROの役割は、今後さらに増加していくと考えられるでしょう。
企業規模や事業内容に関わらず、すべての企業が自社におけるCHROの役割を見つめ直す時期に入ったといえるかもしれません。
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記事監修
瀧谷 知之(Indigo Blue 取締役)
トーマツ コンサルティング(現デロイト トーマツ コンサルティング)に入社し、通信ハイテク業界の戦略立案/変革支援に従事。 その後ジュピターTVを経て、ツタヤオンライン、TSUTAYA、カルチュア・コンビニエンス・クラブで経営企画/経営戦略室長として、ネット事業領域を中心に戦略立案や事業改善、新規事業企画、赤字事業の再建/撤退、M&A等を手掛ける。 2010年に株式会社コラビーを設立し代表取締役CEOに就任のほか、パス株式会社の代表取締役COOおよび各グループ会社の代取/取締役を経て現在に至る。今までに上場企業含め9社の代取/取締役を経験している。