898号「なにかあったらどうする?が組織を老衰させる」(メールマガジン「人事の目」より)

プロのアスリート、株式会社Deportare Partnersの代表を務める為末大さんが“この国は「なにかあったらどうすんだ症候群」にかかっている”と発言されています。おっしゃる通り、言い得て妙だと思いました。

“なにかあったらどうする”、この言葉の裏には、波風立つくらいなら今のままいい“という心理があると思います。批判されたくない、慣れ親しんだやり方を変えたくない、想定していない出来事に巻き込まれたくない・・・。つまり「事なかれ」です。これ、多くの会社の中、特に大企業の中で蔓延しています。

今をより良くするために、**を変えたい、新たに**を始めたい。こんな提言をする部下に対して、“これはどうなってる?”、“こうなることを想定したか?”とリスク要因の洗い出しを求める上司がいます。これは否定しません。そもそもそれは上司の役割だと思います。ただ、この洗い出しの仕方が問題です。

変革を後押ししたい、その企画がとん挫しないように応援する、という姿勢の上司であれば、まずは変えたい、始めたいという想いを称賛します。その上で、その企画を成功させるために協力したいという観点から、リスクの洗い出しを一緒にやるという流れになります。幸いに私はこのタイプの上司に恵まれてきました。

変えたい、始めたいという姿勢にたいする称賛がなく、ダメ出しに終始、かつROIやKPIを示せと言う上司がいます。部下のチャレンジ精神に冷や水をかけます。この上司は完全に「事なかれ」です。部下のその動きで自分に波風が立つのを避けたいという想いだけです。ダメ出しや数値目標の要請は、その上司が誰かから批判的なことを言われたときに、“私はこれを指摘した”と言えるための予防線です。自分の身を守るための言い訳づくりです。

大企業には後者の中間管理職が発生しやすいです。一方でトップはチャレンジを奨励しているので、チャレンジをしているフリはします。新規案件を“生かさず、殺さず”状態にします。これも自分の身を守るための保険的対処です。金はかかるが成果には至りません。本当の意味でチャレンジ精神がある部下はやる気を失うか退職します。

そうなってしまうのには理由があります。中間管理職の権限が限定的だからです。自分で決めることができないので、権限がある上に説明しないといけない。ここが高い壁になっているのです。

企画をGoにするか、No Goにするかは「その企画の内容」と「発案者の熱意」の2つの要素で判断するものです。新しいことや変えることはやってみないとわかりません。そうなると「発案者の熱意」要素が強くなります。発案者から遠い上に説明することになると、どうしても「企画の内容」だけの合理的な議論になってしまいます。机上論としてあらゆるリスク要因へのヘッジを要請されます。やってみないとわからないことであればあるほど、机上の全てのリスク要因のヘッジを説明するのは困難です。責められて終わります。これが繰り返されているので「事なかれ」的な対応になってしまうのです。(当たり前です。)

さらに中間管理職自身が忙し過ぎることも波風を立てたくないと思う原因の一つです。今以上忙しくなるのは避けたいと思うのは当然でしょう。


“事なかれ”のままでいくと当然ながら停滞し、衰退していきます。“事なかれ”は老衰です。それがわかっている人達はそこから抜け出します。日本社会で一番顕著なのが子供の教育ですね。企業であれば優秀人財の流出。私はこの“老衰”を止めたいと強く思っています。


おまけー1:変革を実行するために必要なこと、と言えば「社員のリスキリング」ですね。PHAZEで広島県の企業対象にリスキリングを実行するための研修をプロデュースすることになりました。私が総合監修です。広島県在の企業、団体のみなさんにお薦めです。(広島県庁の企画なので、なんと参加費無料!です。)
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/72/reskilling-event-kenshu1.html

おまけー2:ダイアログインザダークの特別企画「午睡」に参加してきました。これいいですねー。暗闇の中で水を飲みましたが、”この中の一つにワサビが入っています!“と言いたい衝動がありました。(ちなみに企画は6月30日までです。要チェック)

 

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