Vol.792「改革時のメッセージの出し方」(メールマガジン「人事の目」より)

緊急事態宣言が5月末まで延長されそうですね。

意図的なものなのか、結果としてこうなったのか。そのどちらかわかりませんが、
有事が慢性化した現状からすると良いメッセージの出し方だと思いました。なにしろ
“サプライズ”がありません。こういうメッセージが出るだろうとみなが思っている中で
“その通りのメッセージ”が出る、混乱がありません。

”遅い“”先が見えない“という批判はあります。それはそれ。想定外の状況に長らく
置かれている国民の多くに、新たな”サプライズ“を受け入れる感情的なキャパシティが
ありません。ワイドショーでのコメンテイターの発言、SNS上での発言、全国知事会の
意見などが出そろったところでの発信となります。いわば、受け手側の準備が整った
ところでの「延長宣言」です。

組織内のコミュニケーションで一番大事なことは、キーパーソンにとって“サプライズが
ないこと”です。特に何かを大きく変えるというメッセージを全体に発する前に、
キーパーソンに耳打ちしましょう。もちろん、正式発表の前に伝えるわけですから、
漏洩の可能性が生まれます。そこは釘を刺しておきます。ただし、このメッセージを
全員に出す前に意見を聞かせてほしいと話すのです。なぜならば、あなたは大事な人なので、と。

かつて、某外資系企業で一つの事業を3か月でシャットダウンさせる、という無理な案件が
ありました。回りまわって、私に支援要請があり、そのプロジェクトを担当したことが
あります。そのときに一番気を使ったのがコミュニケーションでした。

シャットダウンのため3/4の社員がリストラ対象になりました。一方で1/4の社員に
ついては他部門で活躍してもらいたいとのことでしたので、この1/4については
所属部門長から全社発表の1日前に耳打ちをし、意見を求めてもらいました。
その後、国内外への出張者もビデオ会議で招集し、全員が同じタイミングで
トップから直接、会社の意思決定を聞くというアレンジにしました。

この手のメッセージは伝え方が重要です。職制を通じて伝えようとすると、
人を介するごとに編集され、それぞれの想いが付加されてしまいます。
トップの想いが伝わりにくくなります。全員が同じタイミングで同じ人から聞く。
これが大原則です。

「Corridor talk(廊下でのひそひそ話)」によるネガティブの助長拡大を極力
避けたかったので、トップメッセージを金曜日の17時からの設定とし、終了後は
直ちに解散としました。さらにトップメッセージの最後にこう話してもらいました。

「今日お話ししたことを、週末にご家族、大事な友人と相談してください。
週明けにはみなさんのお考えを聞かせてください。」

翌週の月曜から水曜日まで、部長と全社員が1対1で面談。部長からトップからの
メッセージと同じことを伝えてもらい、その後、個々に不安に思っていること、
質問したいことを話してもらい、3/4の社員には早期退職募集に応募してもらうようにしました
。1/4の社員には応募しないようにしてもらいました。

翌週の金曜日の17時。残された1/4の社員全員を招集し、“これからのこと”を
トップから話してもらいました。早期退職をお薦めしたい人、残ってもらいたい人、
1名を除き、想定通りの結果となりました。訴訟に展開することもありませんでした。

“聞いてない” このネガティブパワーはおそるべきものがあります。当事者意識が
強い人が“聞いてない”という感情を抱くと、一気に強力な抵抗勢力になるものです。
改革リーダーはキーパーソンの“サプライズ”を避けるべく気を配りましょう。

おまけ:4月27日の日経のコラムです。「リモアが普通の時代に」

 

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