どこまで顧客サービスの幅と質を追求するか。経営としては難しいテーマです。大事なことはその担い手(サービススタッフ)の気持ちだろうと私は思っています。
例えばコールセンター。最近はどこのコールセンターでも指定の番号にかけた後に用途別に番号を入力する仕組みになっていますよね。このやり方を採ることで、顧客をたらい回しせず迅速に対応できます。困りごとを迅速に解決する、という顧客価値を高めます。一方でこのやり方は、複数回にわたり顧客とやりとりをする案件では逆に顧客価値を棄損させます。
私自身が経験したことです。とあるクレジットカードで困りごとが発生。その会社のコールセンターでは原因がわからず、担当部署から連絡をしてもらうことになりました。後日、着電があり、留守録に担当の方の名前が残されていました。かけ直したところ、用途別の番号を入力せよとのアナウンスが応答、最後の担当者とお話ししたい方は・・を選択。ここから担当者につながるまでに数分(この予告アナウンスはあり)。ようやく出てきた担当者は留守録に名前を残した人とは別人で、いちから事情を説明することになりました。そこからお客様の状況を調べますとなり、わかったのは「まだ調査中」ということでした。
ここまでくるの20分。さすがに調査中という報告だけでこれでは困るので、登録しているメールアドレスに報告をいれてほしいとお願いしたところ、コールセンターではメールの発信が認められていないとのこと。それではボイスメールに内容を残してほしいとお願いしたところ、連絡がこなくなりました。顧客の困りごとを迅速に解決するどころか、顧客の時間を奪っています。ちなみに、このクレジットカードの年会費は10万円以上です。
この状況を改善するには通常対応の一次サポートと複雑な問題を対応する二次サポートと体制を分ければよいのです。かつてコールセンターの設計を手掛けたことがありますのでわかります。ただ、その分の人員を用意しなければなりません。二次サポートに展開する件数が少ない場合に、そこまで体制を整えないという経営判断となるのはわかります。ただし、それが不満ならば、自社を選んでもらわなくてもよいという割り切りだと思います。
某有名ホテルチェーンの例です。抜群の施設なので人気があります。ただし、食事はあらかじめ用意したものだけ(不味い)、場合によっては仕出し。部屋の清掃も最低限。滞在中のバキューム清掃しない、リネン類のホコリ対策をしない。領収証の発行を現地ではしない。スタッフに問い合わせをしても、“できません”という返事が多い。1泊10万円以上ですが、ここも、そこまで求める方は別のホテルを利用ください、という姿勢だと思います。経営上の割り切りです。
顧客サービスの幅と質を制限する。経済合理性に基づくこの判断については理解できます。お客様の言うことであれば何でもやるのは姿勢であって現実対応にはできません。ある程度線引きをしないと会社として破綻します。ただ、制約がある中でどこまでやれるか考えよう!という想いがスタッフのやりがいにつながるのではないか、と私は考えています。それを会社として制限するのはいかがなものかと。先のコールセンターのスタッフも某ホテルのフロントのスタッフもやれないことについてとても申し訳ないという態度でした。
割り切りの経営を否定はしません。ただ、選ばないだけです。顧客サービスにホスピタリティを期待する顧客は選ばなくなるでしょうし、それを業としたいと思っている働き手も集まらなくなると私は思います。
おまけー1:みどりの窓口が廃止され、代わりに「話せる自動券売機」が登場している駅があります。そこで27枚とか買おうとしている中国人添乗員。とんでもなく列が並び、待てない老人たちが改札に突入。カオスです。
おまけー2:タクシーでクレジットカードを利用。暗証番号を入力しているときにガン見している運転手さん。「押せないときに私が押してあげますから。」(彼なりのホスピタリティの追求か。)
おまけー3:10月14日のNikkei、Smart timesのコラムです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC034R20T01C22A0000000/
記事はメルマガ「人事の目」で配信されています。