岸田総理の「産休・育休中のリスキリング」発言が物議をかもしましたね。育児はたいへんなんだよ、育児をしてないからそんなことが言えるんだ、と嚙みつかれたわけです。その通りです。口がすべりましたね。ただ、この口がすべった背景に今の“リスキリングブーム”の危うさを覚えました。これは岸田総理だけではありません。リスキリングの必要性を訴えている人たちについても同じことが言えます。リスキリングをする人たちの個別の動機と目的が等身大で語られていないのです。
AIやロボティクスの進展により、それまでやってきた仕事がなくなってしまう、だから、新たなスキルの習得が必要であるという話はわかります。かつて駅の改札で切符にハサミをいれていた人は完全に消えましたし、工場のオペレーターの仕事、運転という仕事、ご案内という仕事は次第に人から機械に移っていくでしょう。この点について否定する人はいないと思います。ただ、だからリスキリングを!と言われてもなかなか自分事にはならないものです。
この絵で例示した仕事に就いている人であっても、“まあ、そのうちそうなるだろうけど今やらなくても。”と思うのが関の山ではないでしょうか。
国内有名企業が「DX人材育成に向けて**研修を導入」といった報道をよく目にします。各社なりに工夫して導入されていることと思いますが、大事なことは受講者(社員)にとっての目的が明らかであることと、スキル取得に向けた動機づけです。一般論として必要になるから習得しておきましょう、では絶対に進まないと思います。
企業が社員のリスキリングを進める背景は「生産性の向上」「業態変更」「新規事業の立ち上げ」など、自社として環境変化に適応するためです。生産性の向上のために**業務はロボット化する、業務プロセスを変えることを計画します。そうなると、その業務に従事していた人たちの仕事がなくなってしまいます。そのことを明示的に対象者に伝え、新たな仕事に就くためのスキル候補を示し、それらの習得機会を提供する。これが一番わかりやすいリスキリングです。
また、自社の商品やサービスの質を高めることを計画したならば、関連する仕事についている人たちのスキルを高度化する必要があるわけです。そのことを対象者に明示的に伝えた上でスキルを高度化させる機会を提供する。これもわかりやすいリスキリングです。(これはアップスキルと言われているものですね。)
これらの2つのわかりやすいケースでも、「自社の計画を会社から対象者に明示的に伝えた上で」というプロセスが必須です。全社メッセージでは一般論になります。対象者を特定したメッセージにします。
さらにリスキリングのターゲットとして重要なことがあります。「シニア社員に属人化している知恵、知識、ノウハウの共有のための可視化」です。このためのリスキリングを計画すべきだと思っています。経験豊富なシニア社員に、自分の仕事の進め方、ノウハウを自ら分析してもらい、共有化につなげるのです。そのために必要なスキルを習得してもらうリスキリング、これを戦略的に進めるべきだと思っています。これまでこうしたことをやろうとすると、外部コンサルを雇って高い報酬を支払って進めるのが常道でしたが、いまやサイボウズのKintoneなどのツールを使いこなせるようになってもらうことにより、自分で進めることができるようになりました。このときの動機づけは“自分がやってきたことへの誇りとできるから楽しい”です。キントーンおばさんの事例は参考になります。
https://ascii.jp/elem/000/004/111/4111503/
ということでリスキリングを一般論にせずに自社、対象者にとっての自分事にする。これがあって初めてリスキリングが進むと思います。そのベースに「学び続ける意識」の醸成があります。これは次号で。
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