リスキリングとは?重要性と成功のポイント、先行事例を解説


リスキリングとは、ビジネスモデルの変化や技術革新に対応するため、新たな知識や技術を学ぶことです。近年では、人材戦略上で重要な施策のひとつとして、多くの企業でリスキリングが注目されるようになりました。

この記事では、リスキリングが企業成長にとって重要である理由と、施策を成功させるためのポイント、リスキリングに関する国内外の先行事例をご紹介します。

長年クライアント企業の人材育成や組織開発を支援してきたIndigo Blueの知見から特に重要なポイントを解説しますので、ぜひ参考にしてください。

企業にリスキリング施策が必要な理由

近年リスキリングの重要性が注目される背景として、以下の社会的・経済的な環境変化があげられます。

  1. 第四次産業革命
  2. 生産年齢人口の減少と高齢化
  3. 人的資本情報の開示義務化
  4. 国際競争力の低下

上記はいずれもこれまでとは異なる次元での成長・変革を企業に迫る変化であり、多くの企業がリスキリングによる人的資源への投資を模索しています。

第四次産業革命

第四次産業革命とは、IoT(モノのインターネット)やビッグデータ、AI(人工知能)などを用いた技術革新による産業構造の変化です。

第四次産業革命により、商品・サービスの提供は「大量生産・画一提供」から「個別カスタマイズ提供」へと変わりました。また、AIやロボットによる労働の補助・代替も進んでいます

価値提供や労働のあり方を大きく変える技術革新の結果、労働者には、ルーティンワークやマニュアル作業を正確にこなすスキルではなく、最新技術を理解して活用し、新たな商品・サービスを生み出していく新しいスキルが求められるようになったといえます。

生産年齢人口の減少と高齢化

1995年以降、日本の生産年齢人口(15~64歳)は減少し続けています。また2021年には総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合が、29.1%となりました。今後も生産年齢人口の減少・高齢化は加速していく見込みです。

(出典:内閣府「令和4年版高齢社会白書」

労働の担い手が減少する中でも企業が成長していくためには、一人ひとりの労働生産性を向上させる必要があります。同時に、高年齢者が現役プレイヤーとして活躍し続けるためには、過去の経験と異なるスキルを身に着けることが重要です。

日本の人口動態の変化は、働くすべての世代へリスキリングを求める一因となっているといえるでしょう。

人的資本情報の開示義務化

アメリカを中心に、特許や商標などの知的資産、従業員のスキルやノウハウなどの人的資産などを代表とする「無形資産」が、企業価値の中心と捉えられるようになりました。この流れを受け、日本では2023年3月期決算より、有価証券報告書への人的資本情報の開示が義務化されました。

(出典:内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局、経済産業省 経済産業政策局「基本資料」

企業がいかに優れた人材を保有し、積極的に人材投資をしているか。これらの人的資本情報は、投資家などのステークホルダーが企業価値を判断する大きな要素です。そのため、多くの企業が経営戦略や人材戦略の一環としてリスキリングを掲げ、その取り組みを発信しています。

国際競争力の低下

1980年代後半〜1990年代前半にかけて世界1位の競争力を誇っていた日本は、2021年現在31位までランキングを落としています。

(出典:経済産業省「未来人材ビジョン」

ビジネスのグローバル化が進む現在、日本が世界と肩を並べて競争力を高めていくためには、企業経営の要である人材の採用・育成戦略の抜本的な見直しが重要です。そして2020年9月に発表された人的資本経営に関する最終報告書(通称:伊藤レポート)では、人材戦略の一因としてリスキリングや学び直しの重要性が説かれています。

日本企業が今後も世界経済の中で活躍し続けるためには、時代に合わせた人材のリスキリングが必須といえるでしょう。

リスキリングを成功させるポイント

ここからは、企業が従業員のリスキリングを成功させるために重要なポイントを5つご紹介します。

経営戦略と人材戦略の連動

リスキリング施策は、経営戦略と綿密に連動した人材戦略の上で検討される必要があります。

現在のビジネスで求められるスキルだけではなく、今後3年〜5年で予想される自社事業の変化に対して、どのようなスキルを持った人材がどのくらい必要かという視点でリスキルする内容や規模を想定します。

経営戦略の実現に向けて、必要な専門性や人材像を明確にすることから始めましょう。

不足しているスキルの特定

社内のタレント情報を集約し、不足しているスキルや専門性、総量を把握します。タレント情報の収集にあたっては、収集自体が目的とならないよう注意し、緻密さよりも迅速な概要把握に注力するとよいでしょう。

経営戦略の実現のために、いつまでにどのような人材がどれくらい必要かを見極め、人材確保に向けた採用・育成計画を立案します。

社外の人材登用の検討

必要な人材確保に向けて、すでにスキルを備えた外部人材の登用も重要です。

外部人材の登用は、直接的にスキルを補うだけでなく、自社社員へのスキル伝播の面でも有効です。新たなビジネスを展開する際などは、リスキリングを主導するキーパーソンとしての人材採用も検討するとよいでしょう。

リスキリングと処遇の連動

従業員に対し、全社でリスキリングを進める姿勢や専門性獲得の重要性を示すために、スキル習得や成果に応じた報酬制度の導入を検討してください。

日本企業の人事制度は、ゼネラリストの管理職を育成し、処遇することを基本思想としたものが一般的です。リスキリングによる専門性の習得に合わせて、プロフェッショナルを処遇する人事制度への転換を検討する必要があるでしょう。

※プロフェッショナル型人事制度については、コチラをご参照ください。

実践の場の提供

リスキリングにより習得したスキルをビジネスにつなげるための経験として、実践的な挑戦の場を設けることも重要です。具体的には、以下のような機会が考えられます。

  • 新規事業部門の立ち上げ
  • 社内ベンチャーの創設
  • グループ会社等への出向

短期間での成功や利益を求めるのではなく、チャレンジから得られる経験や成長への投資と捉える姿勢が必要です。

リスキリングの先行事例

最後に、リスキリングに積極的に取り組む国内外の企業から先行事例をご紹介します。

リスキリングに必要な内容は企業ごとに異なりますが、取り組む姿勢や戦略は他社の参考になる内容が多くあります。ぜひ自社の現状と照らし合わせながらご確認ください。

①ウォルマート

世界最大規模のスーパーマーケットチェーンとして有名なウォルマートは、従業員へのリスキリングに積極的な企業として注目を集めています。

eコマースの台頭が小売り業に大きな打撃を与える中、ウォルマートでは企業の生き残りをかけたテクノロジー戦略・人材戦略を打ち出しています。

2018年には、VRデバイスを用いたトレーニングシステムを導入。在庫補充などの店舗業務や、自然災害への対策などを学べるコンテンツの提供を開始しました。

近年では、データ分析やソフトウェア開発など、従業員が技術職として活躍するための研修プログラムを導入し、積極的な人材投資を続けています。

②旭化成

(出典:旭化成株式会社「経営説明会 中期経営計画2024~Be a Traiblazer~進捗状況」

旭化成株式会社では、従業員のニーズに合わせた学びのプラットフォームとして、2023年1月より「CLAP(Co-Learning Adventure Place)」の運用を開始しました。

同社では、中長期的な経営基盤の強化に向けて、トランスフォーメーションと無形資産の最大化を掲げています。無形資産のうち人的資本については、「終身成長」と「共創力」を人財戦略の柱とし、従業員のリスキリング促進を進めています。

CLAPを活用することで、従業員はプログラミングやリベラルアーツなど、約11,500種類の幅広いコンテンツから学習が可能。本人の意欲や関心に応じた学習ができるだけでなく、今後は組織ごとに必要な学習を支援する仕組みや、業務に役立つスキルの定義、コンテンツとの紐づけなどが予定されています。

企業の将来像を見据えたリスキリングを

オーストリアの経済学者ピーター・ドラッガーは、かつてこのような言葉を残しています。

“21世紀に重要となるだろう唯一のスキルは、​新しいスキルを学習するスキルである。​その他のものはすべて、時とともに陳腐化する。”

企業を取り巻くビジネス環境が大きく変動する今こそ、時代に合わせた柔軟なリスキリング施策を継続的に実施していくことが重要です。リスキリングは、単なる社員教育ではなく、企業の生き残りをかけた人材戦略の一環と捉え、経営陣が主体となって推進していく必要があるでしょう。

株式会社Indigo Blueでは、次世代を担うリーダーの育成や評価、組織開発、人事制度刷新の支援など、人と組織の成長を加速させるコンサルティングサービスを提供しています。人材戦略の立案や実行にご関心のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

※サービスの詳細・お問い合わせはコチラからご確認ください。

記事監修

瀧谷 知之(Indigo Blue 取締役)

トーマツ コンサルティング(現デロイト トーマツ コンサルティング)に入社し、通信ハイテク業界の戦略立案/変革支援に従事。 その後ジュピターTVを経て、ツタヤオンライン、TSUTAYA、カルチュア・コンビニエンス・クラブで経営企画/経営戦略室長として、ネット事業領域を中心に戦略立案や事業改善、新規事業企画、赤字事業の再建/撤退、M&A等を手掛ける。 2010年に株式会社コラビーを設立し代表取締役CEOに就任のほか、パス株式会社の代表取締役COOおよび各グループ会社の代取/取締役を経て現在に至る。今までに上場企業含め9社の代取/取締役を経験している。


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