DX人材とは?定義や必要なスキル、マインドセットを解説


「リスキリング」や「リカレント」など、社会人を対象とした学びのアップデートが話題になっています。なかでも、これからのビジネスを支える人材として、「DX人材」の育成や採用に注力する企業も多いでしょう。

この記事では、DXがもたらすビジネスモデルや社会の変化から、DX人材に求められるスキル、マインドなどを解説します。

自社のビジネスモデルと照らし合わせながら、必要な人材像や育成計画の見直しなどにお役立てください。

DXとビジネスモデル・社会の変化

はじめに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の実例を2つご紹介します。

ビジネスのDX化は、企業が新たな市場を勝ち取る強力な一手となるだけでなく、私たちの日常生活にも大きな影響を及ぼしていることがわかります。

Uber

日本では利用方法が制限されているUberですが、移動したい人と車を所有する人とをつなぐプラットフォームとして、アメリカなどで普及しています。アプリ上で予約や決済を完結できるだけでなく、「個人のドライバーが運転する」点に、従来のタクシーとの違いがあります。

プラットフォームを提供するUber自体は、タクシーもドライバーも所有していません。その点で、Uberが単なる配車システム開発ではなく、新たなビジネスモデルを築いたDX化の事例といえます。

バーチャルメイク

従来、化粧品は実際に自分の肌で試してから購入したいという顧客ニーズが強く、新規でのオンライン購入には障壁がありました。

そこで大手化粧品会社の株式会社資生堂は、AIやAR(拡張現実)の技術を活用し、メイクのシミュレーションができる「バーチャルメイク」を導入。6種類のブランドが提供するメイクをネット上で体験し、気に入ったものがあればそのまま購入できる仕組みを構築しました。人々の購買体験を変容させた事例といえます。

DX人材の定義と種類

人々の日常生活にも大きな影響を及ぼすビジネスのDX化。これらを推進するDX人材とはどのような人材か、確認しましょう。

まずは、経済産業省による「DX」の定義をご紹介します。

“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのもや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること”

(引用:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」

そして、DXを推進する人材(=DX人材)は以下の5つに定義づけされています。

(出典:独立行政法人情報処理推進機構、経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.1」

「DX」や「IT」という言葉から、DX人材に対して実際にコードを書くエンジニアのイメージを持たれる方も多いでしょう。しかしビジネスを変革するという性質上、企画から設計、開発、運用までのすべてのフェーズにおいて、DX人材の活躍が必要です。

同時に、従業員全員がDXを自分事と捉えて受容し、推進するために、DXリテラシーや基本的なスキルを高めていく必要があります。

【DX人材対象】必要スキル

「デジタルスキル標準ver.1.1」では、先述のDX人材5類型が共通して身に着けるべきスキルを提示しています。

各類型ごとに求められる要素や程度は異なるため、網羅的なリストとして参考にしてください。

①ビジネス変革

DXは、データやデジタル技術を用いたビジネスモデルや事業の在り方に対する変革を意味します。自社のビジネスや外部環境などを加味した上で、最新の技術を用いたビジネスプランニングのスキルが求められます。

【具体的なスキル例】

  • ビジネス戦略策定・実行
  • ビジネス調査
  • 顧客・ユーザー理解

DX人材5類型の「ビジネスアーキテクト」や「デザイナー」に強く求められるスキルです。

②データ活用

データが持つ意味を正しく理解して活用し、ビジネス戦略に生かしていくスキルが求められます。AIを活用した戦術の立案や実行するスキルも、「データ活用」に含まれます。

【具体的なスキル例】

  • データの理解・検証
  • 数理統計・多変量解析・データ可視化
  • データ活用基盤実装・運用

DX人材5類型の「データサイエンティスト」に強く求められるスキルです。

③テクノロジー

実際にソフトウェアやフロントエンド・バックエンドのシステムを開発したりする専門スキルです。既存の言語などに精通しているだけではなく、メタバースやデジタル通貨など、新たなテクノロジーに関する知識も求められます。

【具体的なスキル例】

  • コンピュータサイエンス
  • webアプリケーション基本技術
  • フィジカルテクノロジー

DX人材5類型の「ソフトウェアエンジニア」に強く求められるスキルです。

➃セキュリティ

情報漏洩等のセキュリティ事故を防ぐための技術や運用方法のみならず、事故が発生しないための体制構築などの知識・スキルが求められます。

【具体的なスキル例】

  • セキュリティ体制構築・運営
  • インシデント対応と事業継続
  • セキュア設計・開発・構築

DX人材5類型の「サイバーセキュリティ」に強く求められるスキルです。

⑤パーソナルスキル

パーソナルスキルは、共通のゴールを設定し、多様な関係者を巻き込んでプロジェクトを成功に導くためのスキルです。

【具体的なスキル例】

  • リーダーシップ
  • 創造的な問題解決
  • 適応力

状況や役割に応じて、DX人材5類型のすべての人材が持ち合わせるべきスキルといえます。

【全社員対象】DX推進に必要なマインド・スタンス

企業のDX推進には、特定の専門スキルを有するDX人材だけでなく、すべてのビジネスパーソンがDXの基礎的なスキルやリテラシーを有することが大切です。

ここからは、全従業員が身に着けるべきDX推進に関するマインドやスタンスを、解説します。経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.1」から引用して解説します。

①変化への適応

自社のビジネスモデルや働き方の変化に対し、主体的に適応していく姿勢が必要です。

単に情報収集に努めるだけでなく、実際に新しいテクノロジーを活用するなど、行動につながる変容が求められます。

②コラボレーション

新たなイノベーションを生み出すためには、自部署や自社などに限定されない多様なパートナーとの協業が重要です。

例えば、社内のDX推進においては部署横断的な取り組みが必要であり、異なる立場のメンバーに対する配慮や理解も求められます。

③顧客・ユーザーへの共感

新しいサービスや商品は、提供者視点ではなくユーザー視点で開発・提供される必要があります。

顕在・潜在顧客のデータ分析などをもとに、ユーザーの課題やニーズを見つけ出す視点を養います。

➃常識にとらわれない発想

日々変容していく顧客の課題やニーズに対応していくためには、過去の成功事例や前例に捉われない発想が大切です。

日常の業務に関しても、当たり前になっている業務手順などを見直し、労働生産性を高める余地がないかを日々検討しましょう。

<参考動画>「集団的思考の罠にはまるな」

⑤反復的なアプローチ

社内のDX推進など、新たな取り組みを行う際には失敗がつきものです。また、最初から変化の大きな改革に着手すると、思わぬ障壁にぶつかることもあるでしょう。

まずは失敗を許容できる範囲内で小さくスタートし、失敗を受け入れて改善していくサイクルが大切です。

⑥柔軟な意思決定

本来のDX推進の目的は、単なる業務改善ではなく、ビジネスモデルの変革などによる競争上の優位性の確立です。前例にない事態に対し、これまでと異なるプロセスでの意思決定が必要になる場合もあるでしょう。

DX推進プロジェクトや現場への一定の権限移譲などの仕組みの見直しとともに、状況に応じた判断力を身に着ける必要があります。

⑦事実に基づく判断

「勘・経験・度胸」などによる主体的な判断だけではなく、データなどの客観的な事実にもとづく判断が必要です。

またITツールの活用においては、適切なインプットが適切なアウトプット、適切な判断につながる事実を認識し、活用することが大切です。

⑧生成AI利用において求められるマインド・スタンス

chatGPTなどのAIチャットサービスの普及により、「デジタルスキル標準ver.1.1」では新たに生成AI利用に関する記述が追加されました。

既存のビジネススキルと生成AIを活用した仮説・検証のプロセスの掛け合わせ、著作権や情報漏洩などのコンプライアンスに関する知識と価値観のアップデートが求められます。

DXスキルの育成は企業の生き残りをかけた経営課題

技術の革新や価値観の変容が急速に進むなか、データやAI技術を活用し、社会のニーズにいち早く適応していくことが、企業の生き残りにとって不可欠といえます。DXを推進するコア人材の育成・獲得を企業の優先的な経営課題と捉え、長期的に対策する必要があるでしょう。

同時に、社内の全従業員が「DXアレルギー」を持つことなく、積極的に受容し、活用していく姿勢も重要です。自社の人材採用や育成などの人材戦略について、いま一度DXの観点から見直してみましょう。

人材育成・組織開発のコンサルティングサービスを提供する株式会社Indigo Blueでは、ビジネスの変革を推進する組織や人材の開発支援を行っています。サービスの詳細・お問い合わせはコチラからご確認ください。

 

記事監修

瀧谷 知之(Indigo Blue 取締役)

トーマツ コンサルティング(現デロイト トーマツ コンサルティング)に入社し、通信ハイテク業界の戦略立案/変革支援に従事。 その後ジュピターTVを経て、ツタヤオンライン、TSUTAYA、カルチュア・コンビニエンス・クラブで経営企画/経営戦略室長として、ネット事業領域を中心に戦略立案や事業改善、新規事業企画、赤字事業の再建/撤退、M&A等を手掛ける。 2010年に株式会社コラビーを設立し代表取締役CEOに就任のほか、パス株式会社の代表取締役COOおよび各グループ会社の代取/取締役を経て現在に至る。今までに上場企業含め9社の代取/取締役を経験している。


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