表面的なシニア活用の人事制度は意味がない
日本企業が「生涯現役時代」への備えを急いでいる。YKKグループは正社員の定年を廃止。ダイキン工業は希望者全員が70歳まで働き続けられる制度を始めた。企業は4月から、70歳までのシニア雇用の確保が求められるようになった。少子高齢化に歯止めがかからず人手不足が続く中、企業がシニアの意欲と生産性を高める人事制度の整備に本格的に乗り出した。
2021年4月19日の日経新聞の記事です。定年廃止、70歳までの延長。間違いなく各社に広がる動きです。
定年延長、廃止だけ実施して、制度そのものの見直しをしない、これだとおかしなことになります。若い層にとっては“トンネルの出口がさらに遠くなる”印象です。いつまでたっても今の状況が変わらない・・・、厭世的な気分を助長しかねません。既存の仕組みを抜本的に見直した方がいいと思います。
社内で社員を格付けし、毎年の評価の積み重ねにより昇格を決める。このやり方を踏襲している限り(評価の優劣による早い遅いはありますが)実質的には年齢的要素が残ります。同じ役職者が5歳くらいの年齢幅の中に入ることになります。
18ないし22歳で入社し60歳で定年する。この期間中の処遇を考えるための人事フレームが今の格付ですが、これまでのフレームを前提として定年延長や廃止をしていくこと自体に無理があると思います。基本となる人事フレームの前提が変わっています。60歳を超えてもバリバリ現役の人もたくさんいます。新入社員だってそうです。“何もできない”ので一から教えないといけない、という常識も崩れつつあります。学生の質は二極化していますが、その上位層はすでに下手な社員よりも即戦力ではないでしょうか。
VUCAの時代、人事制度が目指すべき方向性
私は「アフターコロナ」は「ウイズコロナ」だと思っています。Covid-19によるパンデミックが収まったとしても、新たなウイルスによるパンデミックを視野に入れざるを得ないでしょう。今後どうなるかは不透明かつ不確実。VUCAの時代と言われて久しいですが、まさにそうなります。そうなると、何が起きても柔軟かつ機敏に変化に対応できる集団であった方がいいに決まっています。
これまでの人事制度では過去の実績の積み重ねから上位職が決まります。これだと上の動きが遅い組織になりがちです。今後、求められる姿と違います。
私が推奨する目指すべき方向性は次の通りです。
- 小さな集団の集合体に組みなおす
- 小さな集合体の上位職を「現在価値」に注目してアサインする
- 「現在価値」は年齢不問。若くても高齢でも「現在価値」が高ければアサイン対象とする
- 「現在価値」は“(専門領域で)仕事ができる”ランキングから決める
- これらを推進する人事制度に直す
これが”何が起きても柔軟かつ機敏に変化に対応できる集団“づくりのインフラになります。
この人事制度改訂の際に報酬についての考え方も変えた方が良いだろと思っています。
VUCA時代、社員のモチベーションファクターの中央に「賃金」を置く考え方を見直し、「生活保障の原則」を多少戻した方がよいのではないかと私は思っています。成熟社会ではモチベーションファクターの上位に来るのは自分の人生観・価値観に合った仕事ができるかどうか、楽しいかどうか、です。一方で自分のライフステージに合った生活をしていけないのは困ります。それはそれで考慮する。そういう報酬に変えた方がいいだろうと思っています。
こうした意思決定を早くできるかどうか。まずはそこからですが。
おまけ
おまけー1:今週は嬉しいことが2つありました。とある会社の社長に知人が就任。”世代交代“を一気に進めることを自らのミッションとすると聞きました。素晴らしい。完全に利他。
おまけー2:2つ目はマーサー時代に一緒に働いた年金数理人のIさんが 、なんとアラカンで弁護士に転身。素晴らしい。Learning never ends.
おまけー3:緊急事態宣言再び。しかし、自分の身は自分で守る。これが基本だと思います。
執筆
Indigo Blue 代表取締役会長
柴田 励司(Reiji Shibata)
上智大学卒業後、京王プラザホテル入社。在籍中に、在オランダ大使館出向。その後、組織・人材コンサルティングを専門とするマーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング(現マーサージャパン)に入社。2000年には、38歳で日本法人代表取締役社長に就任する。以降、キャドセンター代表取締役社長、デジタルスケープ(現イマジカデジタルスケープ)取締役会長、デジタルハリウッド代表取締役社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役COOなどを歴任。2010年7月より株式会社Indigo Blueを本格稼働。